作家 犬飼千賀子
長年にわたり京都を拠点に友禅の世界で着物作家として活動してまいりました。京友禅の特長的な雅な作品だけでなく、四季折々の自然の美しさや自分が心で感じた情景などを着物に表現する「叙情的な作風」を得意としております。
京都での暮らしと仕事とその出会いのなかで培った経験は私の作風やスタイルに大きく影響しており、たくさんのお客さまとのご縁、巡ってくる数々の創作機会を得て、その時々の感性の導きによって新たな発見に向き合う日々を送ってまいりました。現在は故郷である山形県鶴岡市の居を移し、山と海に囲まれた庄内地方で自然豊かな環境でさらなる作品世界の探求に勤しみ、また新たな出会いを待ち望んでいます。
創作における「和」の概念
「和」という言葉が表す「なごむ」「やわらかい」「調和」など様々な“心”のカタチ、私が創作のテーマとしている概念です。日本の趣ある自然の素材や色彩を着物に映し出すことで、それを見たり、袖を通す際に「和」の感覚に触れ、心豊かになれるものと考えております。ご依頼の折には、お召しになる方の好みだけでなく、暮らしや生き方・思いなど、様々な事柄をよく伺い、その方にとっての「和」の風景をとらえること。それを良い着物創りに欠かせない要素として大切にしております。
友禅染へのこだわり
江戸時代中期、糸目糊による模様染技法が確立しました。『友禅ひいながた』というデザイン見本帖には、従来の模様染技術と異なり「多色で自由な文様が描けて、水に浸けても色落ちせず、どんな絹に描いても和かである」と記述があります。染色法においての技術革新は元禄時代の人々を魅了しました。優れた染色法と自由な文様表現・豊かな色彩は、革新を続けながら職人の手技によって今日まで脈々と伝えられていることに言いようもなく心が惹かれます。友禅染の奥深さ、優雅で躍動感あふれる美しさは失われることがありません。
友禅染の魅力を共有し、オーダーならではのご依頼者の想いと作家の技が織りなす“唯一無二の存在”となるよう、「創り手」として着る方のとのご縁を大切に、また「伝え手」として長く受け継がれていく技術で着物を創っていきたいと思っております。
絹布『松岡姫』との出会い
白生地は染め上がり・着心地を左右する重要な素材です。純日本の絹『松岡姫』は庄内で生まれた絹です。庄内藩は鶴岡市を城下町として栄え、藩主である酒井家は明治政府の廃藩置県の政策以後もこの地にとどまり庄内地方の産業文化向上に貢献してきました。松ヶ岡開墾事業はそのひとつ。多くの苦難を伴いながら養蚕と製糸事業を進展させ、蚕種『松岡姫』は日本古来の優良蚕種と称されました。今日純国産の絹製品はわずか1%未満といわれる中、純日本の絹『松岡姫』は今もなお受け継がれています。
思うように染め上がらない白生地に苦戦していた時に『松岡姫』との出会いは神の救いのようでした。蚕質・生糸の細繊度・選繭は創り手が意図する染め上がりをかなえ、裏切ることのない絹布と信頼をよせています。振袖・留袖・訪問着に適し、手触り肌触りご満足いただけると確信しています。
- プロフィール
- 1957年 山形県鶴岡市生まれ
1980年 友禅染の色挿し職人として染めに従事
1987年 オリジナル着物の制作開始
1988年 西陣織工業組合 西陣和装学院にて市田ひろみ氏に師事 着付講師を務める
同年コシノヒロコ和装グループのコーディネートアドバイザー(契約)として活躍
1995年 初個展
1998年 「衣屋 千しょう」創業
2005年 「有限会社 千匠」設立
過去に、鶴岡松ヶ岡ギャラリー・酒田市美術館ギャラリー・鶴岡アートフォーラム・新宿京王プラザホテルほかで作品展を開催。
現在、山形県鶴岡市在住