千匠の友禅

友禅染は、布に模様を染める技法で日本の最も代表的な模様染の染色法として知られています。江戸時代の頃にはすでに確立されたと考えられており、「友禅」という名前は当時その技法で染められた作品のデザインで人気を博した江戸中期の扇絵師 宮崎友禅斎に由来しています。

「手描友禅」には様々な技法があり、なかでも「糸目友禅」は手描友禅の代表的な技法であるため「本友禅」とも呼ばれています。各工程別に分業化されていて、全工程が手仕事による一品作品を基本としています。絹布に直接下絵を描き、その下絵に沿って糊(糸目という)を置いて防染を行い、筆や刷毛で絵柄を染めていく伝統的な手法です。
産地によって、京友禅・加賀友禅・東京友禅・十日町友禅など、それぞれ特徴をもった流れがあります。千匠は京友禅の手法で染め、必要に応じて金加工や刺繍を施します。

糸目友禅は元来、もち米を主としたでんぷん糊と天然染料を使用していましたが、明治時代初期に合成染料が日本に入って以来、急激に染色技術がすすみました。また昭和に入ると糸目糊として作業性・防染性優れたゴム糊が開発されました。
千匠は、耐光度のよい化学染料を用いて微妙な色彩を作り出し、地色と文様の配色を落ち着きのある色調に仕上げ、糸目糊は数色の色ゴム糊を使うことで、より柄に深みを出していくのが特徴です。

三百年以上の歴史を今日まで受け継いできた「手描友禅」は、下絵から糊置き・地染め・色挿しと他にも職人技による手間のかかる工程があり一手間一手間かけ、ものによっては完成まで1年もの月日を要する場合があります。千匠は、あえてこの丁寧な手仕事にこだわり、緻密で繊細な高い技術を継承しつつ、手描きならではの自由で美しい作品創りに取り組んでいます。

技法と工程

絹の柔らかさを損なうことなく豊かな表現を演出する友禅染。
その工程の一部をご紹介します。

01下絵

下絵

仮縫いした白生地(下絵羽という)に「青花液」で下絵を描いていく。青花は水溶性で、ツユクサ科のオオボウシバナの花汁を美濃紙に塗った青花紙または化学青花を代用する。

※蒸したり、水に濡らすと消える色素

02糸目糊置

糸目糊置き

糊置きには和紙を柿渋で塗り固めた円錐状の筒を使う。先端に真鍮製の先金をつけた筒のなかに糊を入れ、親指と人差し指で糊を押し出して、下絵に沿って生地を軽く押さえるように糸目を置く。

03伏糊置

伏糊置

糸目糊を置いた文様の中を伏せ糊で防染する。まず糸目のふちを「ふちくくり」し、次に「ベタ伏せ」をする。伏せ終わった糊面に保護のため※「挽粉」をかける。

※製材の時に出るオガクズをふるいにかけた粒子の細かいもの

04引染

引染

生地がシワにならないよう生地の両端を「張り木」で引っ張り、生地幅には裏から「小張り伸子」を打つ。
豆汁やふのりで地入れをした後、刷毛で染料液を生地の端から手早く染めていく。

05蒸し~水元~乾燥

蒸し~水元~乾燥

引き染めが終わった後、蒸して染着・発色させ、流水で伏糊や余分な染料を洗い流す。

06色挿し

色挿し

伸子で生地を張り、豆汁やふのりで「地入れ」をし、色合わせをした後、文様部分に筆と刷毛で色を挿していく。
文様にぼかしを入れる時は、刷毛先が傾斜になった「片羽刷毛」を使う。毛先が長い方に染料、短い方に水を付けてぼかしていく。

07蒸し~水洗~水元~乾燥~湯のし

蒸し~水洗~水元~乾燥~湯のし

色挿し上がりを蒸して染着・発色させたらゴム糊を揮発で水洗した後、水元で不純物を洗い流し乾燥させる。
生地幅や長さを「湯のし」で整える。

08金加工

金加工

染め上がった生地に金銀の箔や金属粉を接着して加飾する技法で「金彩」とも呼ばれる。歴史はかなり古く、友禅染にも補助的加飾加工として多用された。
「金くくり」「押し箔・摺箔」「砂子」「切箔・野毛」など他にも様々な技法がある。

※左写真は砂子筒と切り廻し箔

09刺繍

刺繍

京友禅は必要に応じて金彩や刺繍で付帯加工をおこなう。最終的に施すのが刺繍で「あしらい」と呼んでいる。
刺繍台に生地を張り、繍い糸は撚りのない平糸と撚りを施した撚糸や金銀の箔糸などで繍い方や糸の太さを吟味してあしらっていく。

10完成

完成

「稲束模様」の訪問着の完成です。
庄内平野に実り多きを願って、ご依頼のもとデザイン制作。
絹布は鶴岡市松ケ岡発祥の「松岡姫」を使用、背の一つ紋はつがいの鶴「向かい鶴」、鶴岡の人の想いのこもった一品です。

作家 犬飼千賀子